外から見た富士山に見える天井
内から富士山に見える天井

1. ── ドラマのロケ地、その屋根に富士山が…いや、天井が?

ロゼシアターでドラマ「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」の撮影が行われていたことを、知っている人は多いかもしれない。大ホールの外観や歩道橋(ロゼのかけはし)が使われ、富士市民にはなじみのある風景が、全国のテレビに映った。

実を言うと、筆者はドラマを全部は見ていない。でもたまたま中央公園に遊びに行った時に撮影をしており、ミーハーな私はロケにはちゃっかり参加した。

そんなロゼシアターに、ちょっとした発見がある。歩道橋からふと見上げた先に現れたのは、富士山のようなシルエット。その正体は、建物の中央にある「ガレリア」の天井だった。

2. 富士山のようなシルエット、その理由

ロゼのかけはしから見える富士山の天井

北側の中央公園からロゼシアターへとつながる歩道橋「ロゼのかけはし」。そこに立って南側の建物を見上げると、2階部分に緩やかに弧を描くラインが浮かんで見える。まるで富士山のようなシルエット。

富士山に見えるガレリアの天井の正体

この部分、よく屋根と間違えられるが、実際は建物内部にある吹き抜け空間「ガレリア」の天井部分にあたる。中から見ると、下から大きな白いパネルが緩やかな曲線を描きながら連なっていて、そこから自然光が柔らかく入り込む構造になっている。

ガラスの青さと相まってより一層見える

つまり、外から見える“富士山のようなシルエット”は、建築の内側の形が、偶然にもこのまちの象徴に似た形をしていた、というわけだ。

3. ガレリアとは何か

ロゼシアターのシンボルガレリア空間

ガレリアとは、建物の中央に位置する吹き抜けの大空間のこと。ロゼシアターでは、この空間を軸にして、大ホール、小ホール、展示スペースなどがつながっている。

ガレリアはガラス張りの構造で、外と中との境界が曖昧になるよう設計されている。屋外と連続しているかのような開放感があり、通り抜けるだけでも心地よい。

さらに注目したいのは、ガレリアに飾られた“花”。季節や月ごとに異なる花が活けられており、訪れるたびに異なる表情を見せてくれる空間となっている。

ロゼシアターのシンボルガレリア空間スキップフロア

高い天井と大きな窓。日中は照明がいらないほど自然光が差し込み、空間全体にやさしい明るさが広がる。
コンサートや公演の前後に、ここでゆったりと過ごす人の姿も多い。まさに“まちと文化をつなぐ場”として、機能している空間だ。

私はここを、雨宿りや涼をとるために通り過ぎただけのことがある。そんなときでさえ、この空間に入るときは身だしなみを整えて、丁寧に歩きたくなる。

なお、館内は飲食物の持ち込みが禁止されている。水分補給程度なら問題ないが、たとえばマルシェなどで購入した食べ物を持ち込んで食べるのはご遠慮を、とのこと。ガレリアの空間を守るための配慮なのだろう。

4. アートとしての「タペストリー」

ガレリアの壁面を飾る大きな布の作品にも注目したい。 これはアメリカの芸術家、シーラ・ヒックス(Sheila Hicks)による作品で、タイトルは「四季_富士が見せる様々な表情」。

素材には亜麻(リネン)を使用し、なんと総重量は5トン。長さ103メートル、高さ2.6メートルにもおよぶこの巨大なタペストリーは、2年半の歳月をかけて制作された。

タペストリー一枚

全部で51枚の布から構成され、1枚あたりおよそ100キロ弱の重さがある。 そのスケールの大きさと、富士山が刻一刻と変化する姿を表現した繊細な色彩。建築の一部としてではなく、“芸術作品”として設置されている点も、この空間に奥行きを与えている。

5. 意図しないからこそ、面白い

ロゼシアター外観01

この建物を設計したのは、石本建築事務所。公共施設の設計に定評があり、機能性とデザイン性を両立する建築で知られている。

設計者が富士山を意識してつくったわけではない。けれど、歩道橋から見上げたとき「このライン、富士山みたい」とふと感じたのは、意匠設計を少しかじってきた自分だからかもしれない。

建物に富士山が宿っているなんて、ちょっとした驚き。でも、その偶然に出会えたことが、なんだかうれしかった。

ロゼシアター外観02

富士市は車社会。そのぶん、街のなかの素敵なものを見逃してしまうことも多い。 けれど、少し歩いてみれば、まだ誰も気づいていないような“富士山”が、ふと現れるかもしれない。

本物の富士山と、建築に宿った“隠れ富士”。ふたつの富士が重なる風景は、日常の中にある小さな感動。

写真を撮ってSNSに投稿するのもいいし、誰かと一緒に歩いて「ねえ、見て」と教えてあげるのも素敵だ。

偶然が重なって見えた“富士山”。設計者の意図とは違っても、そう見えたことが少し誇らしく思えた。

このまちには、まだ見ぬ富士山がきっとある。 そう思えるだけで、なんだかこのまちがもっと好きになる。

ロゼシアター外観03
  • このみ会

    Jun(ジュン)

  • 神戸市出身、富士市在住。フリーのフォトグラファー・建築デザイナー。
    富士市にしかないこの街の面白いモノ・コトを写真を撮ることが趣味。
    お洋服・インテリア・雑貨・文房具が大好きで、
    必ずしも生きていく上で必要ではないものにこそ、
    心を豊かにする価値があると考えている。
    Instagram:@apostrophe_i

  • 名称・名前 富士市文化会館 ロゼシアター
    住所 静岡県富士市蓼原町1750  富士市中心街・市役所通り沿い
    駐車場 あり
    その他 ドラマロケ地・“隠れ富士”・歩道橋からの撮影が人気。 SNS投稿は「#ロゼ富士」で!

PICK UP!!