── 岳南江尾駅を舞台にした、私からの感謝状

1. 苦手だった甘酒との出会い

神戸出身の私は、出産と育児をきっかけに「食」と向き合うようになった。
ただ一つ、どうしても克服できなかったのが甘酒である。独特の風味に苦手意識があり、敬遠してきた。

そんな私の目に留まったのが、岳南鉄道・江尾駅をリノベーションした「こころみち糀店」の姿だった。
「ここならもしかしたら甘酒を克服できるかもしれない」──そう思い、訪ねることにした。

2. 江尾駅の歴史とリノベーションの魅力

岳南電車・江尾駅は1953年(昭和28年)に開業した、戦後間もない時代の建築である。
その駅舎を活かしリノベーションして誕生したのが「こころみち糀店」である。
古き良き木造駅舎の趣に糀の温もりが加わり、訪れる人を包み込む空間となっている。

駅構内には季節ごとの装飾が施され、訪れるたびに異なる表情を見せる。
夏にはタープや風鈴、彩り豊かな花々が並び、田んぼから吹き抜ける涼風とともに心地よい時間が流れていた。

やまたかの緑茶の無料提供

3. 由香さんの温かな人柄

初めて訪れたお客様とも楽しそうに話す店主高橋由香さん。

ドリンクを作る由香さん メニュー表も由香さんの手書き

店を営む高橋由香さんは、初めて訪れる者にも気さくに声をかけてくれる。
私は思い切って「甘酒が苦手なのです」と正直に打ち明けた。
すると由香さんは、
「苦手な人、結構多いんだよ。そういう方にはほうじ茶やカフェラテが飲みやすいよ」
とすすめてくれたのである。

注文前に試飲を勧めてくれる心配りも印象深い。
ひと口含んだ瞬間、炊き立ての米の甘さがふわりと広がり、それまで抱いていた「甘酒=苦手」という固定観念が崩れ去った。
由香さんは「私はね、どんな人にも私の爪痕を残したい」と語る。
駅を訪れる人々を迎え、見送りながら一人ひとりに寄り添う姿勢こそ、こころみち糀店の大きな魅力である。

店内は、シンプルでありながら温もりに満ちている。
由香さん自身が神社など「和」の文化を好み、また、かつて建築に携わっていた夫と共に駅舎をリノベーションしたとのこと。
昭和の駅舎が持つ素朴な風合いをそのまま活かしつつ、糀の世界観を重ね合わせた空間は、訪れる者に懐かしさと新しさを同時に感じさせる。

4. 季節限定メニューと糀スイーツ

令和7年8月18日。真夏日の下、私は再びこころみち糀店を訪れた。

左から糀トマト、ザクロ酢ソーダ、ブルーベリー酢ソーダ、糀オレンジ

糀トマト

鮮やかなトマトの色は岳南電車の赤い車両を思わせる

赤と白が混ざる瞬間を目にするところから楽しさがある。色合いは抜群に可愛らしい。
トマトと糀の甘みが調和し、小さな子どもや糀初心者におすすめである。

また、鮮やかなトマトの色がなんと岳南電車とリンクする

糀オレンジ

オレンジの酸味と糀が合わさり、さっぱり爽やかな味わいに仕上がっている。食後にも適している。

ブルーベリー酢ソーダ

ブルーベリー酢ソーダ: 下から糀、ブルーベリー酢シロップ、ソーダの三層が美しい

フルーティーな酸味が日差しに疲れた身体に染み渡る。

ザクロ酢ソーダ

初めて甘酒に挑戦したい人にぜひすすめたい。ザクロと糀の甘さと酸味がまるでザクロのヨーグルトのよう。

とうもろこしのジェラート(※今年限定)

とうもろこしの粒までしっかり入っている甘酒のじぇらーと

まるで冷えたとうもろこしを齧っているかのような食感と甘みである。
甘酒が苦手な人でもデザート感覚で楽しめる一品である。

5. 糀のお土産と空き瓶への想い

季節限定のドリンクやスイーツを堪能した後、私は子どもたちへのお土産に「食べる甘糀じぇらーと」のプレーン、抹茶、ほうじ茶を買って帰った。

プレーン味は、乳製品は入っているものの、砂糖を減らし甘糀を入れているとのこと。既存のバニラアイスとも異なり、ミルクのコクも感じながら、不思議とさっぱりした甘みを楽しめる。子どもたちにも「ミルクだ、美味しい」と大好評であった。
体にやさしい「食べる甘糀じぇらーと」は、家族のご褒美にも、お土産にもぜひおすすめしたい一品である。

空き瓶をおしゃれな照明に変えるコルクライト

店内には、甘酒の空き瓶を活かすアイデアも一緒に紹介されている。
由佳さんのもとには「空き瓶がゴミになってしまう」と悩む声が届いていたという。
そこで彼女は、瓶そのものを“捨てたくない存在”にすることを決意した。
可愛らしいデザインのパッケージはその想いから生まれ、店頭には瓶を再利用できる「コルクライト」も置かれている。

6. 家族で楽しむ、江尾駅のひととき

岳南電車と踏み切り、新幹線が一度に見られる激アツ駅でもある

初訪問の日、息子は車で眠ってしまい岳南電車と踏み切りと新幹線を同時に見るという機会はお預けになってしまった。
今回は私一人での再訪だったが、次は家族で、できれば岳南電車に揺られて訪れたいと思う。

「克服する場所」だったこころみち糀店は、今では「楽しみに行く場所」へと変わった。
子どもたちがどんな反応を見せるのか、次の訪問が今から楽しみである。

7. まとめ

こころみち糀店は、ただの甘酒専門店ではない。
駅舎の温もり、季節ごとの風景、そして由香さんの人柄が重なり合い、「甘酒を克服する体験」から「甘酒を楽しむ時間」へと導いてくれた。
甘酒が苦手な人にこそ訪れてほしい。
きっと、新しい発見と出会えるはずである。

  • このみ会

    Jun(ジュン)

  • 神戸市出身、富士市在住。フリーのフォトグラファー・建築デザイナー。
    富士市にしかないこの街の面白いモノ・コトを写真を撮ることが趣味。
    お洋服・インテリア・雑貨・文房具が大好きで、
    必ずしも生きていく上で必要ではないものにこそ、
    心を豊かにする価値があると考えている。

  • 名称・名前 こころみち糀店
    住所 静岡県富士市江尾(岳南電車 江尾駅構内)
    営業時間 11:00〜16:00
    駐車場 あり(駅駐車場 4・5・6)
    その他 アクセス:岳南電車「江尾駅」下車すぐ

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